見てきたので、その感想。
岩井俊雄はかれこれ10年以上前にいまはなき初台のICCの展示で作品を見たことがある。コンピューターを使っていながら、手触りも含めてアナログの面白さを体験させる作品を作れる、とてもセンスのいいアーチストだと思ってずっと興味を持っていたが、顔も声も聞いたことがなかった。なので、ついにそれを生で見れるということで、期待して行った。で、今回の講演で、生い立ちからいままでの作品までざーっと話と写真で見せてくれて、大体この人はどんな人なのかわかったような気がする。
今回の講演の後半は、TENORI-ONというヤマハの楽器の話だった。この楽器の前身は、僕もICCの展示で随分前に見ているんだけど、その時の作品は、正直全然ピンとこないものだった。PC上だと思うがモニターに向かってマウスで1人で操作する奴も、4人で立って操作する方も、そもそも概念の理解がむずかしくその場で遊べる感じではなく、出る音もあまり魅かれなかったような気がする。とにかく利用するシーンが殆どなさそうなものだと感じた。
ところがヤマハのTENORI-ONは、それらとはまるで違う、実際に音楽の制作に利用できる道具だなとおもった。具体的には音源付きシーケンサーで、位置づけとしては、いわゆるプロ&アマチュア向けDTM用ツールで、なおかつ楽譜を読める能力を必要としないで、触っているうちに作曲ができるという道具だ。
自分は生まれてからこの方いくつか欲しいシンセサイザーや電子ドラムなどあるけど、その中で、もっとも欲しい楽器はたぶんTENORI-ONだろうというくらい、すばらしく良いと思った。自分は音は好きだが本当に楽譜が読めないので、特にこれがいいなあと思う。これはヤマハの歴史の中でもDX-7と同じくらいに、革新的でエポックメーキングなものではないかと思う。
いまはまだ市場の反応を見るためにテスト的にイギリスでのみ販売されているらしく、日本では多分見れないのだと思うが、日本でも発売されることを期待してます。とはいっても僕は、仕事趣味どちらも音楽を作ることはないので、よっぽどお金がないと買いませんが、余暇があればこれで音楽つくって聞くのもいいかもなあと思う。
今回の講演を聞いて、1つ知ったのは、ハードウェアを制作することの苦労で、ほんとに(政治的に)大変そうで、メーカーに居ない限りまず自分の考える製品を、世に出すことは無理なんだろうなと感じた。(これは今回の講演のむしろ逆効果か?)
それでも、この道具が演奏者だけでなく他者への視覚的な表現も考えられて作られており、かつポータブルなものであるために、これからいろいろなライブやクラブで使われ、それによってさらにユーザーが増えて行くだろうといった期待も持てる。
しかし、僕が思ったのは本当はそんなに苦労してハードにしなくても、もしかしたらiPod TouchやiPhone用のソフトとして作ってもいいんじゃないかということだった。その方が遥かにコストは少ないはずだ。
さて、それはともかく、ICCの展示で見たTENORI-ONの前身と、今のヤマハのTENORI-ONとの違いは、1つは見た目だと思う。それは、視覚的にどれだけ単純に見えるかとか、きれいに見えるかという、いわゆるiPhoneと同じ万人に受け入れられる取っ付き易さ、もう1つの違いは多分音色だと思う。TENORI-ONからは普段クラブなんかで流れるような、ハウス系の音楽で使われる音色が出てくる。
あ、あと、今思ったがもしかして、もう一つ大事なことは、このハード1台で、一応ハウス系の曲が、なんとなく仕上がってしまうというところにある。しかもそれをバックに、即興で演奏もできるという、なんというか、MPC-60系のオールインワンさにもあるのかもしれない。(MPC-60使ったこと無いので違うかもしれんけど。)
ま、そんなわけで、とにかくヤマハTENORI-ONはすばらしく、僕のあこがれの岩井 俊雄がついに、DTMやら楽器を使うためにほぼ必須となる楽譜の解釈能力や、楽器への著しい訓練の結果によってのみ可能だった作曲と具体的な曲作成を、全く簡易なものにして、その方法を世界に提示したことは、ファンとしてもすごく嬉しく、さらにこれで、音楽の歴史がちょっとでも変わったらなおさら嬉しい。
ちなみにiPod TouchやiPhone用のソフトと書いたけど、本当はアップルがSDKを提供していないので、実際には商品やら製品として作ることは今のところアップルしかできない。SDKは今月末に登場する次期OSと同時に提供されるかもという噂がある。でもこのTENORI-ONのコンセプトはアップルのかつての子供向けプログラミング環境COCOAにも近いような気がするし、アップルから提供されてもシックリ来る感じはする。
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